今年は生きているなかで
「どうやってクリエイティブ作ってるんですか」
「クリエイティブ力の鍛え方おしえてください」
と聞かれることが一番多かった一年でした。
「クリエイティブについて書くか~」とぼんやり思考をつらつらと書いていたら大きく4つのテーマに分別されたのでTwitterでアンケートをとったところ、やはり「クリエイティブ制作時の考え方」がいちばん票多かったのでそれを今日は書きます。
大層なタイトルつけたわりには普段ぼくがなに考えているかとかその程度ですので、気軽な読みものとして扱っていただければと。
クリエイティブやデザインと聞くと(せ、拙者には個性がないし…)と苛まれる方もいると思いますが、哲学者オルテガの著書『ドン・キホーテをめぐる省察』に「私とは、私と私の環境である」という言葉があるように所詮、個性なんてその程度のものなのでたいして必要ないと言えますし、環境によって簡単に変わり続けるものだとも思います。
さて、良いクリエイティブを生むためには、まずは考え方の土台から整えていく必要があると思っているのでそこからお話ししていきます。
この記事の目次
広告クリエイティブの訴求についての誤解
先日、こんなTweetを見かけました。
警察「お前の要求はなんだ!?」
犯人「五千万円を用意しろ!あと、逃走用の車もだ!」
IT「それは要件だ!要求を言え!」
警察「」
犯人「」— Jun Harada (@hrjn) December 15, 2021
ぼくはどうも要件のことを訴求と呼んでいる人が多いと感じています。
要求に対するものを訴求と呼ぶべきであって、要件を訴求と呼んでいてはズレた広告クリエイティブが出来上がってしまうと考えています。
広告している対象物を必要としているユーザーにも要求があるので「〇〇が300ml配合のものをよこせ!あと、楽天3冠とっているものだ!」と言いたいわけではなく「肌荒れを治したい」みたいな要求のうえに要件が成り立っているだけです。
なんなら「肌荒れを治したい」という要求の先には「来週のデートまでにニキビをなんとかしたい」というベネフィットがあるかもしれません。
要求に対して要件を提示してもなかなか響きません。要求を解決するためのアプローチこそ訴求と呼ぶべきです。
クリエイティブ制作で意識していること
あなたが作った広告クリエイティブの先には実際の人間がいて、その一人ひとりには論理を超えた感情が宿っていたりします。
文章の単純な意味ではなく、その文章を読んだひとはどう感じてどう行動するのかというところまで考えなければなりません。
これらをきちんと想像するために、以下の3つのことに気を配っています。
1.コンテクスト
例えば同じ文章でも前後情報や背景情報によって文脈は変わります。
Google広告のハック見つけた
Google広告のハック見つけた
本とかも複数回読んだり、関連書籍を読んでからまた読み返すとぜんぜん違う内容が頭に入ってきますよね?文章が変わったわけではないのに。
なのでユーザーがどのように情報(クリエイティブ)を受け取るかを客観的に、俯瞰的に、そして網羅的にみる努力が必要です。
これは”常に毎回”意識するだけでクリエイティブ判断の精度は上がってきます。
そして、これを応用できるようになるとあえて誤認識させることもできるようになります。
例えば「クリスマスキャンペーンとか何もやってないし、広告文にはクリスマスのクの字も入ってないし、画像にもサンタやツリーなどの情報はないけど、パッと見クリスマスっぽい」クリエイティブを作ることができればあえてコピーを簡素にし、「お。今年のクリスマスプレゼントにいいかも?」と購買に対する合理性をもたせることができたりもします。
ぼくの今月のヒットクリエイティブは上記でした。
このようなクリエイティブを”ふくみをもたせたクリエイティブ”と呼んでいます。
2.ビジネスインパクト
ここで大事なのは定量調査です。
これを言うと「OK、ボリュームゾーン把握して広告作ればいいのね」と解釈されがちですが、似て非なるものです。
例えば「10代男性のニキビ悩みで一番多い箇所はアゴ」というアンケート結果があったとします。
ボリュームゾーンに訴えかければいいと勘違いしていると「アゴニキビで悩んでいる10代男性へ!」みたいな広告コピーを作ってしまいがちです。
そもそもアゴニキビができる原因の一つである「ひげ剃り」に着目して広告を作る必要があったり、10代のほとんどは学生で慢性的な肌荒れも多いためケアと同時に「BBクリーム」などの提案が必要だったりするので、定量調査はリサーチの前準備みたいなものです。
また、ボリュームゾーンに対して広告を作ると意外とパイがとれないし、ボリュームゾーン以外のCPAが極端に高くなってしまいます。
定量調査の目的は市場把握であって、ボリュームゾーンだけでなくそれ以外のユーザー層と量を把握し、そのうえで「さてどうするか」とクリエイティブ制作にとりかかる必要があります。
3.認知バイアス
アインシュタインの言葉に「常識とは18歳までに身につけた先入観のコレクションである。」というものがありますね。
認知バイアスとは統計学的な誤り、社会的帰属の誤り、記憶の誤りなど人間が犯しやすい問題であると定義されています。つまり、意識的に防ぐことができる問題です。
クリエイティブ制作に必要なものは、同時にクリエイティブ制作を阻むものとして認識し、どんな情報もフラットに受け止めるべきです。
あなたの既知は顧客の未知であるかもしれないということは常に念頭に入れておきたいです。
あとは認知バイアスの一つでもある確証バイアスにも要注意です。
ぼくがコンサルで「こういう根拠だからAをやろう」という提案をしたときに「それは前やったけど良くなかった」と一蹴りされてしまうことが往々にあるのですが、これは確証バイアスが働いている可能性が高いので注意が必要です。根拠に触れていないのが証拠です。
ニュアンスの機微・時期・配信面・入札など諸々の前提条件が一致していないからそもそも比較として成り立っていないんです。
効果が悪かったクリエイティブに対してもそうですし、良いクリエイティブに対しても悪く働くことがあります。
「どこを見てもAという訴求をしていて、うちもA訴求しているクリエイティブがずっと効果良い」という状態にあるとなかなかAを超えるクリエイティブを作ることができません。また、A訴求のクリエイティブ効果が落ちてきたときに「他社もうちもずっとコレが良かった。きっとこれを超えられるものはない。直近CPA上がってきたけどこれが現状の最も安いCPAだ」のように非合理的な判断をしてしまいがちです。
運用者はつねに“情報はフラットに受け取り、現状を疑うこと”を癖にしたいです。
制作時の最終形態はイタコ。憑依
クリエイティブ制作時、何に力を入れているかというと
- リサーチ
- 人に聞く
を徹底してます。
あ、ダメです!待ってください。新卒が研修初日に言われるようなことだからってまだガッカリしないでください。
でも本当に、やっていることとすればコレくらいなんです。
ユーザーがどのような悩みを抱えているかサッと10個出てきますか?それってほんとうに実在するユーザーの悩みですか?その人に対してその商材がなぜ良いのかきちんと推せますか?どのような未来を見せられますか?商材の成分や価格などの特徴をすぐに答えられますか?実際の商品の使用感などの感想を伝えられますか?
顧客と商品と市場を正しく理解することがいかに難しいことか。
先ほどの3点を意識したうえでのリサーチと、そうでない場合のリサーチには雲泥の差があります。
2年ほど前にゆうじさんがこんなツイートをしていました。
「クリエイティブのアイデア出しどうしてる?って話」
結局、アイディアなんてすでにある〇〇と✕✕の掛け合わせだから
①とにかくいろんな知識や経験を幅広く取りに行く
②とにかく考える時間を明らかに増やす
③とにかく手を動かす時間を明らかに増やす「最後に圧倒的にユーザーの気持ちになる」
— ゆうじ@サウナはレスタが至極 (@ug_twad) January 23, 2020
この”圧倒的に”というのがめちゃくちゃ重要。コレ、ゆうじさんはたぶん憑依のことを言っていますね(勝手な解釈)。
憑依できる状態になったらある程度勝てます。ユーザーの思考とそのプロセスを想像・理解できるのでそれに対する訴求を作ることができますし、アイデアが浮かんだときには憑依して反応を確かめることもできます。
そしてこの憑依状態を作るためには正しいリサーチが必要不可欠です。
正しいリサーチができていないことの弊害
それはユーザー乖離が起きてしまうことです。
過去、うちの新人ライターさんが書いた記事に
「愛犬は毎日ちゃんと歯磨きさせてるよ!」という方がほとんどだと思いますが本当に大丈夫ですか?
という一節がありました。
このような一文を書いてしまっている時点で、記事のすべてが台無しになってしまう可能性が高いです。
これってペット総研とかみたら「毎日歯磨きさせている飼い主は1割台」ということが一発でわかるんですよ。
- 毎日ちゃんと歯磨きさせてるよ!という圧倒的少ない母数のユーザーに対して寄り添ったまま記事を書いてしまう
- なので歯磨きに悩んでいるユーザーに対して刺さる文章を書くことが困難と想定される
- 毎日ちゃんと歯磨きさせていない人は「じぶんに関係ない」と思って読むのをやめてしまう
という負の連鎖がおきてしまいます。
この状態、マジで何をやってもうまくいきません。
本来獲得できるであろう商材を手放すきっかけにもなり兼ねませんし、「他社が獲得できていると聞いて参入したけど全然ダメやん」というのもリサーチ不足起因が大きな割合を占めていると思っています。
経験上、広告が跳ねるとき
ぼくの経験上、跳ねる広告は3つに分かれることが多く、一つは他社を一切寄せつけないUSPが提示できるときです。例えばその分野で自社だけが特定保健用食品を取得しているとかですね。
この場合、同商材を運用している他社メディアにどうやって勝つかが問題でクリエイティブ以外の部分で重み付け値が高くなってきます。記事力やデザインの勝負になったり、単価高いところが踏めたりして札束の勝負になったりもします(強訴求にもなりがちなので注意)。
それ以外だと大まかに分けて2つに分かれるなと感じていて、以下を意識したとき効果の良いクリエイティブが生まれている気がします。
ベネフィットを提示したとき
幼児向け学習教材で伸びた事例を一つだします。
この業界では、
子どもが勉強に集中する
という訴求をよく見ます。
しかし、これが実際にどういったメリット・利益に繋がっているかってよくわかりませんよね。
“子どもが勉強に集中する”こと自体ももちろん良いことですが、その先にあるベネフィットには「家事が捗る」「自分の時間ができる」というものがあったりします。
ユーザーは商品の特徴だけでは想像できませんし、わざわざ自分で考えてくれません。
ベネフィットが一つ見えるだけでクリエイティブアイデアの派生にも幅が利きます。
トヨタのなぜなぜ分析のように、「つまり?」を問い続けることで真の要求が見えてきたり、ときには顧客自身さえも気づくことができなかったベネフィットに辿りつけることがあります。
商品の使い方を提案したとき
広告主もユーザーも想像していないような使い方を、現実的な範疇に落とし込んだときもよく伸びる傾向にあります。
過去に、生地が特徴的だったレギンスを「もちもちで高級パジャマ着てるみたい」「これだけでパジャマとして使える」というコピーで、ジェラピケやベアフットドリームスを想起させるようなクリエイティブで販売したときも伸びました。
(いまでこそ「パジャマレギンス」というのを商品名に使うところがあるくらいメジャーな訴求ですが、当時この訴求はどの競合もしていなかったです)
よくみるシャンプーの訴求である「モテシャン」「まるで香水」とかアレもこの一種ですね。
これは深い商品理解と実際の商品のポテンシャルと需要を理解していないと作れませんし、新たな視点からの供給シェアを取りに行く手法なので意外と高等テクニックだったりします。
良いクリエイティブには「愛」が重要だったりする
良いクリエイティブにすべて愛があるというわけではありませんが、愛があるからこそ創造できるクリエイティブはたくさんあります。
ぼくは極力、可能な限り、担当する広告の商材・サービスを好きになるよう努力します。
これを意識するようになったきっかけは、ぼくが尊敬している人…が尊敬している敏腕マーケターの立ち振舞でして。
そのマーケターにお会いしたことは一度しかなく話に聞くことばかりだったのですが、その方はすべてのクライアントのフロントに立っているそうで、何よりクライアントの商品・商材を漏れなく自分がプライベートで愛用しているそう。ぼくが尊敬している人も同じで、クライアントの商品を愛飲していました。
商品を購買することが愛とは思いませんが、愛するが故の行動だと思っています。
2人とも素敵なコピーを書くんですよ。
愛があると時間軸が変わる
時間軸が変わったとき、その商品に対する広告戦略の展望がだいぶ変わってきます。
“いまこれを売るためにどうするか”という考えが“これからこの商品を売っていくためにいままず何をするか”に変わります。
そして時間軸が変わると、更なる能動性が生まれると思っています。
この能動とは「何かをすること」ではなく、内的能動、つまり自分の力を生産的に用いることです。
ある商材・サービスに対して愛を持つと、情報の絶対量はいままでと何ら変わらないハズなのに、それに関連する情報がいままでとは見違えたように入ってくるようになります。
それだけでなく生活全体が関連づけられるので「もしかしてこれはこういうことか!」みたいにふとした瞬間の気づきに繋がることも多々あります。
売上が落ち込んだときにも戦略の立て直しをして策を練るので、圧倒的にビジネス体力がつきます。
アフィリエイトの場合には固執・介入しすぎると損失にもなり兼ねませんが、直クライアントなど長く付き合っている顧客であれば早々と撤退はしませんよね?そのような顧客が1社いるかいないか、向き合うか向き合わないかで広告戦略全体に対する向き合い方や考え方が大きく変わってくるでしょう。
さいごに
この記事のアイキャッチ素材。
素材サイトでなんと検索したと思いますか?
正解は「マスク」です。
素材サイトでめぼしい素材を見つけることは良い訓練になります。ぼくはこの訓練を6~7年やり続けています。
- 出品した主がどういうタグ付けを行うか想像する
- どんなキーワードであればお目当ての雰囲気が拾えるか
- お目当ての素材を見つけたときに意外なタグ付けがされていて気づきになる
などのメリットがあるので、日常の作業にこういった習慣を取り入れることから始めてみるのおすすめです。
それでは少し早いですが、良いお年を!
追伸
今年ぼくが最速でCVした広告がこちらです。
脳を使わずして、100人が100人おなじ意味として捉えることができる良いクリエイティブですね。
とか色々褒めようとしたんですが、振り返ってみたら今年はパンばかり買っていました。どうやらパン系に弱いです。宜しくお願いいたします。